仕出し弁当と民俗学

仕事柄、いろんなセミナー、カンファレンス、そのほか説明会のようなものに出席することが多い。
まあほとんどがITモノなので、国内企業主催のものもあれば、海外企業主催のものもある。
また、日本国内だけを対象にしたものでなく、ワールドワイドのものもあったり、アジア圏のカンファレンスが日本で、といったものもある。


2〜3時間で終了というカンファレンスはまずないので、大体昼食が出る。
(場合によっては、朝と昼とか、一日終わった後に懇親会とかもある)


で、その昼食だが、日本の場合、通常は弁当が出る。
日本人は、「なに当たり前のことを」というだろうが、これは非常に特殊なケースだ。


なぜ、みんなが同じメニューを食べることができるのか?
これはとても稀有なことだ。


多民族国家を考えてみよう。
キリスト教のある宗派、仏教のある宗派、イスラム教、ヒンドゥー教、などなど、
宗教面だけをみても、食べてはいけない食材が存在する。
単純に肉と魚を考えただけでも、全ての人が受け入れられる食材はまずないだろう。
さらに、地域性の問題などから、水より酒が水分補給手段として一般的だったりする場合もある。


こんな人たちが一堂に会したとき、昼食に弁当を出すことが出来るか?


ある程度接客に手間をかけられる旅客機のサービスならまだしも、
(いくら事前予約とはいえ)ぞろぞろと集まってくるカンファレンスの出席者の
昼食のリクエストをいちいち聞いてそれぞれにあわせた弁当など用意していられないだろう。


こんなわけで、海外の場合は、バフェイの形式がほとんどだ。
(日本的に言えば、バイキングもしくは食べ放題)
当然ながら、めいめいが、食べたいものだけを食べることが出来る。
これはサービスなのではなくて、このほうがリーズナブルだからだ。


・食材のコストは低い。
・人件費は高い。
・人によって食べられるものは異なっている。
・土地代は安い。


ただし、
近年の日本も、食材のコストだけは下がっている。
したがって、1つ1つ弁当箱に食材を詰めるより、一気に作ってでっかく盛り、好きに取ってもらったほうがトータルコストが安くなる可能性は非常に高い。
しかも、弁当とちがって暖かいものを食べられる場合が多い。


こうしてみると、バフェイは弁当よりよさげに思えるが、欠点もある。


・カンファレンス会場とは別に、同程度以上の人員を収容できるスペースを確保する必要がある。
・並ばねばならない。
・食事に割く時間が長くなる。
・立食になることが多いため落ち着いて食事できない。
・ある程度の規模でないと採算が悪い。


弁当の場合、カンファレンスを受けた席に弁当を配ってそのまま食べられるので、別に食事場所を設ける必要がないのだが、バフェイの場合はそうはいかない。
適当な広間にテーブル、食事、皿を並べていくことになる。
さらに(ここが最大の欠点だと思うが)大抵の場合、バフェイには列が出来る。
皿とフォークをもって、ずらずらと並んで食材を取らなければならない。
人数の多いカンファレンスだと、食事時間の半分以上が列に並ぶ時間なんてこともある。


しかも、座って食べる場所まで確保できる場合はめったになく、大抵が立食になるため、食事を落ち着いてできない。
食事時間が日本の倍確保されていても、落ち着いて休憩することが出来ることは少ない。


さらに、人件費を削減するには、大量の食事を一気に作るほうがよいため、2〜30人程度のカンファレンスにバフェイはありえない。
(どっか外に食いに行け、となるだろう)
さらにさらに、会議スペース、食事のための別スペース、バフェイの仕出しができること、までそろった場合、大抵が規模の大きいホテルとなるため、結局固定費もかかる。


しかし、おそらく、少なくとも、
バフェイで、昼食時にずらずら並んで食事を取らねばならないのは、
弁当で、冷えたおかずしか食べられないのと同じくらい、仕方ないこととして、
皆が認識して(もしくは諦めて)いるのではないかと、思う。


こうした、ある生活習慣では諦めてしまっていることが、
他の生活習慣のもとで蒸し返されることがよくあるので、
こういった状況を拾いおこすのはとても楽しい。


ところで、バフェイの形式が一般的な国や地域において、
「好き嫌いしないで食べなさい」という、子供への躾は
成立するんですかね?